映像 インスタレーション (00:05:29)
人が死後の世界へ向かうことを、中国語では「上路」と表現する。「上路」の前には、人生で記憶に残る場所をもう一度巡ると言われている。本作品は、亡くなった祖父の第一視点から、過去の記憶を振り返りながら冥界へ向かい、生と死をつなぐ最後の旅路を想像して制作された映像。
祖父が亡くなったことで、祖父にまつわる記憶――街や昔の風景が、時間や都市の変化とともに現実の中で建て替えられたり、取り壊されたりして、消えてしまったことを改めて実感した。
しかし、それらの風景はストリートマップのデジタルデータとして記録され、意図せずに残されていた。誰の感情や意図も伴わない客観的なものでありながら、過去の記憶を新たな形でつなぎとめる存在でもある。
広東の葬儀文化においては、紙紮(紙製の供え物)を燃やすことが儀式の最後の一環とされる。この行為は陰と陽、両世界を繋ぎ、亡くなった人が死後の世界で必要とする物を届ける。燃やし終えた後、亡くなった人は安心して「上路」し、陰と陽両世界の境界が完全に分かたれるのだ。
展示空間では、紙紮そのものの展示と燃やす映像によって文化背景と個人の記憶との関係性を視覚化する。
本作品は、消え去った風景に記憶の欠片を探し、記憶を再構築しようと考える。

